「家族」とは何か、知りたくてこの脚本を書いた。
「家族」とは何か、あまり考えたことがなかった。
団欒というものにほとんど記憶がない。ウチの食卓にはいつも一人いなかったから。
だから、父の帰りが遅くて二人いない日があっても気にならなかった。
家族全員が集まるのは正月か法事。
家族とはそういうものだと思っていた。
いつもいなかった一人、兄が本当にこの世からいなくなった。
突然すぎて、私たちは悲しんでいいかさえわからなかった。
残された私たちは毎日顔を合わせるようになった。
葬儀の後の干からびた寿司桶の前。
納骨の後に行ったハンバーグを溶岩石でジューッと焼く鉄板の前。
みんな黙って食べていたが、私はその情景に思わず笑ってしまった。
ウチの久しぶりの家族団欒だったからだ。
私はその時、初めて「家族」というものを考えるようになった。
「映画」というものに答えがないように「家族」というものにも答えはないだろう。
しかし、答えを知りたくてもがいてしまうのは人間の業だ。
もがいた先に憎しみや怒りや悲しみが見えたとしても。
脚本を書き終えても答えは見つからなかった。
ならば、作りながら更にもがけばいい、と思った。
今回、初めて出会う「家族」と一緒にもがいて映画を作り上げればいい。
そこに見える家族の風景。
私が最初の目撃者となりたい。
監督・脚本 野尻克己